電子工作ケースを自作するメリット
電子工作で完成したデバイスを市販のプラスチックケースに入れようとすると、穴の位置が合わなかったり、サイズが大きすぎて無駄な空間ができたりと、なかなかピッタリのものが見つかりません。3Dプリンターを使えば、基板・ポート・ボタンの配置に完全に合わせたオーダーメイドの筐体が作れます。
3Dプリンターによる筐体自作のメリット:
- 基板・コネクタの位置に完全に合わせた設計が可能
- プロトタイプを素早く作ってフィードバックを得られる
- 材料費が安い(小さなケースなら数十円〜数百円)
- 色・質感・形状を自由に選べる
- Thingiverse等で公開されている既成データを流用できる
CADソフトの選び方
筐体を設計するには3DCADソフトが必要です。主要なCADソフトの特徴を比較します。
| ソフト | 費用 | 難易度 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| Tinkercad | 無料(ブラウザ) | 易 | 直感的な操作、入門に最適 |
| Fusion 360 | 無料(個人) | 中 | 高機能、プロも使用、クラウド保存 |
| FreeCAD | 無料 | 中〜難 | オープンソース、オフラインで使用可 |
| OpenSCAD | 無料 | 難 | コードでモデリング、パラメトリック設計 |
| SolidWorks | 有料(高額) | 中〜難 | 業界標準、学生版あり |
Tinkercadで始める
Tinkercad(tinkercad.com)はAutodesk提供の無料ブラウザ型CADです。アカウント登録だけで使え、インストール不要です。基本操作は「ドラッグで形状を配置し、引き算で穴を開ける」だけで、小学生でも使えるシンプルさが特徴です。
Arduinoケースであれば以下の手順で設計できます。
- Arduinoボードの外形寸法(68.6mm × 53.4mm)を確認する
- Tinkercadで底面の長方形(74mm × 60mm)を作る(周囲に3mmの余裕)
- 高さ(壁・蓋の厚み)を設定する
- USBポート、電源ジャック、ピンヘッダーの位置に穴を開ける
- ネジ穴をM3サイズ(直径3.4mm)で開ける
Fusion 360で本格設計
本格的な設計にはFusion 360がおすすめです。個人の非商用利用は無料で、パラメトリック設計(寸法を後から変更しやすい設計方法)ができます。
電子工作ケース設計の重要ポイント
寸法の測り方
基板の寸法はデータシートや公式ドキュメントで確認できますが、実物をノギスで実測するのが最も確実です。主要ボードの公開寸法は以下の通りです。
| ボード | 外形サイズ(mm) | マウントホール(M3) |
|---|---|---|
| Arduino Uno | 68.6 × 53.4 | 4箇所 |
| Arduino Nano | 43.2 × 18.0 | なし(標準) |
| Raspberry Pi 5 | 85.0 × 56.0 | 4箇所 |
| Raspberry Pi Pico | 51.0 × 21.0 | 2箇所 |
| ESP32-DevKit | 55.0 × 28.0 | なし(標準) |
公差(クリアランス)の設定
3Dプリンターは設計値通りに印刷できないことがあります(印刷精度の限界)。はめ合い部分には0.2〜0.4mmのクリアランスを設けるのが一般的です。
- ゆるいはめ合い(スライド):クリアランス 0.3〜0.5mm
- 固いはめ合い(圧入):クリアランス 0.0〜0.1mm
- ネジ穴(M3スクリュー):直径3.4〜3.6mm
最初は少し大きめに設計してテスト印刷し、実際のはまり具合を確認しながら調整する「試し印刷」アプローチが現実的です。
マウントホール(固定穴)の設計
基板をケース内に固定するには、ネジ穴またはスナップフィット(爪で固定)を設計します。
ネジ固定の場合:
- 基板のM3マウントホールに合わせてケース側にM3ネジ穴(直径3.4mm)を開ける
- 基板の高さを確保するためのボス(柱)を設ける(高さ3〜5mm程度)
- ケース底面からの高さは基板裏のはんだ・部品が当たらないよう注意
ケース底面 ──────────────────
| |
| ボス(高さ5mm) | ← ここにネジを通す
|________________|
| 基板裏面 | ← はんだが当たらないよう隙間を確保
コネクタ・スイッチの開口部
USBポート、電源ジャック、HDMI、SDカードスロットなどの開口部は、コネクタ実物のサイズを測って設計します。一般的な開口部サイズの目安を示します。
| コネクタ種類 | 開口部サイズ(目安) |
|---|---|
| USB-A | 14mm × 7mm |
| USB-C | 10mm × 4mm |
| micro USB | 9mm × 4mm |
| DCジャック(5.5/2.1mm) | 直径9mm(円形) |
| HDMI(フル) | 16mm × 7mm |
| 3.5mmステレオジャック | 直径8mm(円形) |
通気孔(ベンチレーション)
Raspberry PiやESP32などの発熱するデバイスには通気孔が必要です。密閉すると熱がこもり動作が不安定になります。
おすすめの通気孔パターン:
- 2〜3mmの丸穴を均等に並べる(ハニカム配置)
- スリット状の細長い穴を開ける
- 格子状のグリルデザイン
Tinkercadでは複数の円柱形状を「穴」として配置し、ボックスから引き算することで通気孔パターンを作れます。
フィラメントの選び方
| 素材 | 印刷温度 | 特徴 | 向いているもの |
|---|---|---|---|
| PLA | 180〜220℃ | 扱いやすい、生分解性、低コスト | 一般的なケース |
| PETG | 220〜240℃ | 柔軟性あり、高強度、やや難しい | 屋外・強度が必要なケース |
| ABS | 230〜250℃ | 高強度、耐熱、反りやすい | 工業部品 |
| ASA | 230〜260℃ | 耐UV・耐候性、屋外向き | 屋外設置デバイス |
| TPU | 220〜240℃ | ゴムのような弾性 | 保護カバー、パッキン |
電子工作のケースにはPLAが最もバランスが良いです。印刷しやすく、見た目もきれいで、コストも安い。ただしガラス転移温度が60℃程度なので、車内への放置や直射日光が当たる場所には向きません。高温環境にはPETGを選びましょう。
印刷設定のポイント
| 設定項目 | 推奨値 | 理由 |
|---|---|---|
| 積層高さ | 0.2mm | 品質と速度のバランス |
| インフィル密度 | 20〜30% | ケースなら十分な強度 |
| 壁の厚み | 2〜3ライン(1.6〜2.4mm) | 強度と印刷時間のバランス |
| サポート材 | 不要な設計にする | サポート除去の手間を省く |
| ブリム | 大きなフラット面には追加 | 反り防止 |
Thingiverse活用:設計データの流用
Thingiverse(thingiverse.com)はユーザーが3Dプリント用データを無料公開・共有するプラットフォームです。「Arduino Uno case」「Raspberry Pi 5 case」などで検索すると、様々なデザインの既成データが見つかります。ダウンロードしてそのまま印刷することも、Fusion 360でカスタマイズすることもできます。
まとめ
3Dプリンターを使った電子工作ケース自作のポイントをまとめます。
- CADソフトは入門にTinkercad(無料・ブラウザ)、本格的にはFusion 360
- 公差(クリアランス)0.2〜0.4mmをはめ合い部分に設けると合いやすい
- ネジ穴はM3ボルト用に直径3.4〜3.6mmで設計
- フィラメントは一般用途にPLA、高温・屋外環境にはPETGが適している
- 発熱するデバイスには通気孔を忘れずに設ける
- Thingiverseに豊富な既成データがあるので参考にする
IoTデバイスの自作についてはIoTプロジェクト入門、Raspberry PiのプロジェクトアイデアはRaspberry Piプロジェクトガイドも参照してください。
よくある質問
Q. 3Dプリンターを持っていなくても筐体を作れますか?
はい、3Dプリントサービス(DMM.make、造形村等)を使えば自分で設計したデータを入稿して筐体を作れます。1個から注文でき、複雑な形状でも作れます。
Q. 電子工作の筐体にはどのフィラメントが適していますか?
入門にはPLA(ポリ乳酸)が最も扱いやすくコスパが良いです。高温環境(車内など)や強度が必要な場合はPETGまたはASAを選びましょう。
Q. 無料のCADソフトはありますか?
Fusion 360(個人利用無料)、FreeCAD(完全無料)、Tinkercad(ブラウザで動くシンプルなCAD、無料)があります。入門にはTinkercadが最もとっつきやすいです。
Q. 3Dプリンターのコストはどのくらいですか?
入門機は3〜5万円程度から購入できます。フィラメントは1kgで2,000〜3,000円で、小さなケースなら数十グラムしか使わないため、材料費は非常に安く抑えられます。